演題抄録

若手臨床腫瘍医のための技術ワークショップ

開催概要
開催回
第51回・2013年・京都
 

分子標的薬を医療経済の視点で考える

演題番号 : TW1-1

[筆頭演者]
加藤 健:1 
[共同演者]
沖田 南都子:1、高島 敦生:1、本間 義崇:1、岩佐 悟:1、濱口 哲弥:1、山田 康秀:1、島田 安博:1

1:国立がん研究セ中央病院 消化管内科

 

近年のがん薬物療法の進歩は、分子標的治療薬の存在によるものが大きい。リツキサン、イマチニブ、トラスツズマブが出現したあとも、様々な分子標的治療薬が従来の治療法を凌駕する形で標準治療として用いられるに至っている。新規に承認される薬剤の約7割は分子標的治療薬である。その一方、高額な医療費が無視できない存在となってきている。従来の殺細胞薬とことなり、複雑な分子生物学的手法を用いて製造されるこれらの薬は、開発はもちろん、製造販売においても莫大な設備投資を必要とし、そのコストが薬価に反映されているのは事実である。
日本における国民医療費は35兆を越えてなお増加傾向である。その中で、他の分野と比較してがん医療費の増大はすさまじく、3兆円と10年前の約2倍となっている。進行再発大腸癌の標準治療の一つであるFOLFOX+Bevacizumab療法は、1回の投与に約34万、XELOX+Bevacizmabは約50万円の薬価がかかる。一方で、Bevacizumabを含む化学療法を行うことで無増悪生存期間を1年延ばすのに必要な医療費は約540万円である。高額療養費制度を用いれば、患者負担は一定の額を上回ることはないが、それを上回る金額は医療保険、ひいては国民全体の負担ということになる。劇的に効果がある薬剤であれば、多少高額でも意味はあるが、大規模臨床試験によってもたらされた、わずかな差によってポジティブと判断された薬剤の場合にはそのように判断すればよいのだろう。
医療費を抑えたい側と、少しでも効果のある新薬にアクセスしたい患者側の考え方が異なるのは当然であるが、感情や、雰囲気ではなく、治療法を医療経済学的視点で捉えた上で議論すべきである。その一つの物差しが、QALY(質調整生存年)である。これは、1年生存を伸ばすためにかかるコストを生活の質も加味した上で計算した指標である。英国では、保険でカバーしうる新薬の承認には、医療経済学的視点を取り入れており、外部機関である英国立医療技術評価機構(NICE)によるレビューを経て新規承認を行っている。1QALYあたりの費用は3000-500万円が目安と言われているが、それぞれの国の経済状態は保険システムの違いにより変化すると思われる。コストに見合うだけの金額を議論していく必要がある。
いずれにしても、医療経済学を議論しなくては行けない時代に突入している。様々な視点はあるものの、共通の物差しを持った上で議論を進めていく必要があると思われる。

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