演題抄録

シンポジウム

開催概要
開催回
第51回・2013年・京都
 

がん悪液質と食欲調節ホルモン

演題番号 : S6-6

[筆頭演者]
乾 明夫:1 

1:鹿児島大学大学院 心身内科学分野

 

悪液質は食欲不振や体重減少を主徴とする病態で、がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、炎症性腸疾患、慢性腎不全など多くの基礎疾患に合併し、メタボリックシンドロームと共に社会の二重負荷 (Double Burden) として知られるようになった。がん悪液質は、がん死の20-25%を占めると言われ、とりわけ小児や高齢者においてその頻度は高い。体重減少は体脂肪量減少および骨格筋量減少(サルコぺニア)によると考えられ、サイトカインの関与が示唆されている。2008年には、国際悪液質学会による悪液質の診断基準が提唱された。
食欲調節に関する理解は、1994年のレプチンの発見以来飛躍的な進歩が認められた。体脂肪組織からその量に応じて放出されるレプチンは、脳内に体脂肪の蓄積状況を伝える求心性シグナルであり、視床下部に存在する食欲調節物質が食欲やエネルギー消費を変えることにより、体重(体脂肪量)を一定に保持するというフィードバックループの存在が証明された。胃から見出された空腹ホルモングレリンも、この食欲・体重調節ループの重要な因子であることが明らかとなった。悪液質は、サイトカインによるレプチン様シグナルの過剰病態であり、このことがグレリンを初めとする飢えに対する生体の応答を阻害し、持続的な食欲不振、基礎代謝量の亢進、体重減少を引き起こす。従って悪液質の治療においては、過剰なレプチン様シグナルを是正することが目標となる。
悪液質の治療は多くの場合、癌そのものを治癒させることができない状況の中で、食欲を増加させ、体脂肪量や筋肉量の減少を阻止し、QOLの維持、向上をはかると共に、各種治療の耐性を高め、予後を改善することにある。日本では現在、副腎皮質ステロイドが経験的によく使用され、その食欲促進機序は、脳内視床下部の強力な食欲促進系ペプチドである神経ペプチドY(NPY)を活性化することにある。副腎皮質ステロイドが週単位で使用されるのに対し、外国ではプロゲステロン製剤が月単位で使用される。これら1次薬剤以外に、胃排泄能促進、サイトカイン合成抑制、抗セロトニン作用などを有する薬剤が試みられつつある。グレリンの悪液質への臨床応用も、国内外で開始されている。
本講演ではがん悪液質の成因と、最近の治療の進歩に関し、特に食欲調節ペプチドの立場から述べる。悪液質の病態や治療法が明らかになることにより、緩和医療への応用が進められてゆくものと思われる。

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