演題抄録

シンポジウム

開催概要
開催回
第55回・2017年・横浜
 

がんゲノム医療政策に於ける遺伝性腫瘍と遺伝診療~遺伝医療政策学的立場から~

演題番号 : SY11-2

[筆頭演者]
高田 史男:1,2 

1:北里大学・大学院医療系研究科・臨床遺伝医学、2:北里大学病院・遺伝診療部

 

ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーが,実母をはじめ近親者に乳癌や卵巣癌を発症し一部若年死亡の家族歴も有していたために自らの遺伝子を調べた所,BRCA1に変異を認めた.そして2013年5月14日,リスク低減乳房切除術 (RRM)を自らの意思で受けた事を公表した.このニュースは世界中を駆け巡り日本でも一大センセーションを巻き起こした.
問題はここからで,この直後より家系から乳癌に不安を抱く人々が医療機関へ相談に訪れ始めたのである.近年はただでさえ増加傾向の乳癌患者への対応が困難になりつつある中,患者の血縁者にまで守備範囲を拡げなくてはならなくなるのかと,多忙な現場の医師らは乳腺外科医を中心に危機感を募らせた.
斯様な状況を受け,先ず日本乳癌学会 (JBCS) が同年6月に日本人類遺伝学会 (JSHG) に申し入れを行い,次いで日本産科婦人科学会 (JSOG) も加わり,この「常染色体優性遺伝病」でありながら毎年数千人もの新規患者が発生し,乳癌・卵巣癌・遺伝のどの診療科も単科のみでは診療を完結する事が出来ず連携が必須となるHBOCへの診療供給体制の整備の必要性等について協議を開始した.
第1に,少なくとも充足しているとは言えない乳癌,卵巣癌,遺伝の各々を担う医師を初めとした人的医療資源の不足する状況下で,国内の津々浦々で標準治療が地域格差無く受けられる体制の整備・均霑化実現の方途が検討される事になった.そして第2にHBOCに従事する人員の教育,第3に将来の日本人患者用の治療法選定の適正化へ向け,症例登録データベースの構築についての検討が始まった.何度も会議が持たれ,徐々に青写真が固まっていった.
最終的に3学会が協力して公益性や公的性格を有する新たな法人組織「一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 (JOHBOC) 」を設立し医療体制を整備していく事となった.2016年7月には法人登記も完了し,現在は本格稼働を開始しつつある.厚生労働省健康局がん・疾病対策課も賛同しており,RRMとリスク低減卵管卵巣切除術 (RRSO) の先進医療申請や,その先に控える保険診療化も遠望しつつ,困難な課題にも挑戦していく事になると思われる.
現在,国はがんゲノム医療推進を目標に,ゲノム情報をがん診療に役立ててprecision medicineを実現化する施策を進めている.HBOCはじめ遺伝性腫瘍はまさにその中心的標的となる.対がん行政に於けるHBOCの位置づけについても少し触れてみたい.

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