演題抄録

パネルディスカッション

開催概要
開催回
第55回・2017年・横浜
 

I~III期乳癌に対する薬物療法の将来

演題番号 : PD8-3

[筆頭演者]
高野 利実:1 

1:国家公務員共済組合連合会虎の門病院・臨床腫瘍科

 

乳癌は、局所病変が認められたときには、血液中に癌細胞(微小転移)が巡っている可能性が高く、局所治療(手術と放射線療法)だけではなく、全身の癌細胞を制御するための全身治療(薬物療法)が重要である。局所病変では致命的とはなりにくいため、乳癌の予後を決めるのは遠隔転移であり、それを左右するのは、局所治療よりも薬物療法である。
薬物療法には、化学療法、ホルモン療法、分子標的治療があり、ホルモン受容体やHER2などの効果予測因子や再発リスク因子に基づいて適切な治療が選択される。周術期化学療法としては、1976年にCMF療法の有効性が報告され、1990年代には、アントラサイクリン系抗癌剤の有効性が示され、2000年代にはタキサン系抗癌剤を加える意義が示された。さらに別の抗癌剤を加えたり、省略したり、投与法を工夫したり、最適なレジメンが模索され、バイオバーカーによる個別化治療が追求されている。ホルモン療法や分子標的療法についても同様の議論が重ねられ、世界中で臨床試験が行われている。
I~III期の早期(および局所進行)乳癌に対しては、手術を行うとともに、その前後に薬物療法を行うのが一般的である。手術による根治性を助けるという意味で、「術前補助療法」「術後補助療法」と称されてきたが、薬物療法が患者の運命を決めることを考えれば、「補助」という言葉は適切ではなく、「術前薬物療法」「術後薬物療法」と呼ぶべきである。「補助」を使うのであれば、「薬物療法前補助手術」「薬物療法後補助手術」と呼ぶべきだという意見もあるが、手術と薬物療法のどちらが主でどちらが補助かという不毛な議論をしている場合ではない。どちらにも重要な目的があり、適切なタイミングで適切に行われる必要がある。
かつては手術を行ってから「術後薬物療法」を行うのが主流であったが、最近は、「術前薬物療法」を行ってから手術を行うことが増えている。術前薬物療法の利点として、①治療中に効果判定ができる、②病理学的な抗腫瘍効果の判定で予後予測ができる、③より早く全身治療を開始できる、④縮小手術が可能になる、などが挙げられる。また、薬物療法がよく奏効した場合に、手術を省略できる時代が来るとの予測もある。
これまでは、「より強く、より多く」治療を重ねる方向で治療が進歩してきたが、これからは、「一人ひとりにとって最適な」治療を模索する時代となるだろう。

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