演題抄録

特別講演

開催概要
開催回
第54回・2016年・横浜
 

酵母から始まったオートファジー研究

演題番号 : SL2

[筆頭演者]
大隅 良典:1 

1:国立大学法人 東京工業大学・科学技術創成研究院

 

生命は絶えざる遺伝子発現によって維持されている。一方、生体は常に合成と分解の平衡状態にあり、タンパク質は代謝回転している。しかし分解に関する研究は合成に比べて長らく注目されることはなかった。
オートファジーとは、細胞内の主要な分解経路であり、その存在は60年以上前に見いだされたが、その分子レベルの理解は遅々として進まなかった。私は、酵母液胞の生理生化学的研究を進めて来たが、1988年にその分解コンパートメントとして機能の解明を目指すことにした。酵母を窒素源飢餓に晒すと、液胞に細胞質成分が大量に運ばれて分解されることを見いだした。電顕観察により、この過程が動物細胞のオートファジーと同様な膜動態からなることを明らかにした。直ちに遺伝学的解析を開始し、オートファジー不能変異株を多数単離することに成功し、オートファゴソーム形成に必須な機能を持つ18個のATG遺伝子群を明らかにした。これらの遺伝子が基本的に保存されていることは、オートファジーが真核細胞の出現とともに獲得されたことを示している。ATG遺伝子の同定は従来のオートファジー研究の質を一変させた。即ち遺伝子の操作により、高等動植物細胞や個体におけるオートファジーの生理的な役割の理解が一気に進み、今日も新しい知見が次々と報告されている。オートファジーの特性は単にタンパク質のみならず、超分子構造、オルガネラ、細菌などの大きな構造を分解できることにある。オートファジーは、単に栄養飢餓時のアミノ酸などのリサイクル機構としてのみならず、細胞質中の過剰な、あるいは有害なタンパク質や、オルガネラの分解を通じて、細胞質のホメオスタシスに関わっている。近年オートファジーが様々な高次生理機能、感染防御、発生、老化、さらには様々な病態に関わることが明らかになりつつある。
我々は酵母の系に特化してオートファジーの膜動態の分子機構の解明を進めてきた研究の到達点を紹介する。しかしオートファジーの研究はまだ研究の歴史が浅くまだ黎明期にある。オートファジーの多様な誘導条件、そのシグナル伝達、それぞれの過程で分解される基質の同定が必要である。液胞でのタンパク質のみならず核酸、脂質の分解機構と最終分解産物の特定、それらの細胞質への輸送と代謝への影響など未解決の問題である。現在我々が取り組んでいる生理生化学的研究について話を進める。

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