演題抄録

パネルディスカッション

開催概要
開催回
第54回・2016年・横浜
 

サイコオンコロジーの役割と精神的支援のあり方

演題番号 : PD-2

[筆頭演者]
和田 信:1 

1:地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター・心療・緩和科

 

がんを抱える人は、様々な精神的苦痛を経験する。
がんという診断を初めて告げられた時の精神的衝撃から、治療にまつわる懸念、病状が進行する不安、再発や転移を知った時の衝撃と混乱、健康に生活を送れなくなる不安、仕事や家族の役割を失う喪失感、そして死の不安まで、様々な局面で重大な精神的危機を迎えうる。
現代のがん治療の進歩で、がんと診断されてからの余命は伸びたが、それだけに、精神的苦しみを抱える期間も長くなっている。
多くの患者は、自らの力でこれらの精神的危機を何とか乗り切ってゆき、家族や友人に支えられたりもする。医療では、がん治療の主治医や看護師などが精神的支援の役割を担うこともある。
そのうちの一部が、不安や抑うつ、混乱や、強い怒りなど精神症状として事例化し、精神科医や心療内科医、心理士などのメンタルヘルスの専門家のところにやってくる。精神症状とその背景となる心理を正確に評価することは、対応方法を選択する上で、極めて重要である。適切な評価に基づかない介入によって事態が悪化する例は枚挙に暇がない。検査データや画像で示されるものと異なり、形の見えない精神症状と心理を的確に評価することは、専門家でない医療従事者にとって難しい。サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の専門家が貢献すべき課題は、がん医療の現場の至る所に残っている。より多くの患者と家族、医療従事者に、サイコオンコロジーの役割を知っていただきたい。
しかしながら、死の不安という不可避で重大な問題は、狭義の精神医学や精神療法/心理療法の枠組みで扱いきれない面を含んでいる。演者としては、限られた命を生きる同じ人間として、生命の限界を強く意識し、死の淵を患者とともに見つめ、生きる苦しみと希望を共有できるよう努めている。人間的、実存的立場から共感を深めるようとする方向である。
それでも中には、宗教的次元からの支えが必要だと感じられる人もいる。病の苦しみや生死にまつわる重くて深い人間の根本問題について、宗教が長い歴史の中で培ってきた叡智は、病に苦しむ人にこそ、生かされるべきであろう。手を伸ばせばすぐそこに宗教的背景をもつ支援にも触れられるというあり方が、医療においても、社会全体においても実現できると良いのではないだろうか。

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