演題抄録

シンポジウム

開催概要
開催回
第53回・2015年・京都
 

循環器疾患を合併する患者のがん薬物療法 -腫瘍循環器の役割-

演題番号 : S1-5

[筆頭演者]
向井 幹夫:1 

1:地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター循環器内科

 

高齢化社会である我が国ではがんと循環器の両者を合併する症例が急増している。その一方で、がん治療の進歩に伴う予後の改善により心血管系合併症(心毒性)を発症する頻度が増えている。1970年代にアントラサイクリン系薬剤における心筋障害の発生が報告されて以来、がん治療における心毒性の概念は分子標的薬の出現で大きく変化した。分子標的薬による心毒性は細胞殺傷型抗がん剤とは異なり心機能障害、高血圧、虚血性心疾患などの副作用を呈する一方、その対応には分子標的薬の作用機序に即した分子レベルでの理解が必要である。
心不全(心筋障害)を認める分子標的薬としてトラスツズマブが知られている。HER2受容体に対するモノクローナル抗体である本薬剤は、HER2受容体が心筋にも存在することから心筋障害を合併する。しかし、アントラサイクリン心筋障害と異なり可逆性心筋障害を示すことやその病態は未だ不明な点が少なくない。心機能障害の臨床的評価は、心エコーや心筋バイオマーカーなどを用いて治療開始前後で評価し左室駆出率の低下をより早期に診断する必要がある。また、ベバシズマブは血管新生阻害薬として最も多く用いられている薬剤の一つであり、高血圧、蛋白尿が高率に出現し血栓塞栓症、穿孔などの重篤な合併症を呈する。これらの合併症の出現時期やその機序は不明であり、それぞれのがん患者の病態に合わせた治療が必要である。そしてこれらの心毒性は、発症当初は自覚症状が不明瞭であるが急激に重篤化することがあり注意を要する。
がん症例に対する薬物治療において、循環器疾患、特に心機能障害や虚血性心疾患、血栓塞栓症を合併する症例は、心毒性の出現の可能性も高く慎重な治療が要求される。今後、新しい機序の抗がん剤が開発され新しい機序の心毒性が出現する可能性がある。したがって、がんと循環器の両者を合併する症例に対して、循環器内科は臨床腫瘍科や各がん診療科と協力し集学的治療を行う必要がある。そして、がん治療における新しい領域として「腫瘍循環器(Onco-cardiology)」をより発展させることが重要である。

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