演題抄録

基調講演

開催概要
開催回
第53回・2015年・京都
 

“自分らしい人生”を支援する―診断時からエンドオブライフ・ケアまで

演題番号 : KL3

[筆頭演者]
清水 哲郎:1 

1:東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣講座

 

"がんと生きる"とは、罹患した本人のことには違いないが、また本人と一緒に生きている家族のことでもある。緩和ケアは、登場した当時はがんの終末期における症状コントロールをはじめとして、がんの進行に伴って起きてくる本人と家族の身体的、心理的、社会的、そして精神的(=生きる意味や自らの尊厳にかかわる)諸問題に対応し、生命の長さは度外視して、ただQOLを高め・保持することを目的とするとされていた。この時すでに、緩和ケアは終末期のみならず、早期の段階から有効であると指摘されていたが、ここから進んで、最近では緩和ケアの定義から「どういう時期か」という規定は外され、疾患の進行のすべての時期にわたって、本人と家族の諸問題に、疾患自体に対抗する以外のアプローチで取り組むものとされている。

終末期ケア」と従来呼んできた活動は、最近では「エンドオブライフ・ケア」(EOLC)と呼ばれるようになっている(ちなみに、厚生労働省は「人生の最終段階における・・・」と呼ぶようになった)。この変化は単に用語上のことではない。「終末期」かどうかは生命について医学的に判断される事柄であるのに比し、「エンドオブライフ・ケア」の時期かどうかは、ただ医学的に判断されるものではなく、「本人が必要だと感じた時が開始する時」(英国NHS)などと言われるように、人生の観点で判断されるものだからである。"がんと生きる"という時の「生きる」もまた、ただ身体が生命活動をしているということではなく、「人生を生きている」という意味に違いない。

以上のことを前提して考えるならば、「"がんと生きる"をサポートする」ことは、診断がされ「生命を購うためには、かくかくのものを捨てなければならない(例えば手術で声を失う)」と言われ、自らの人生の物語りの書き換えを迫られる時期から、衰弱が進み、身の回りの世話をしてもらわねばならなくなって、それでも自らの尊厳を失わずに生きようとする時期まで、緩和ケアの思想と方法をもって本人と家族を支えることにほかならない。

NHSはEOLCを定義して「(死へと近づきつつある人々が)死に到るまでできる限りよく生きるように、また尊厳をもって死に到るように支援する」としているが、「できる限りよく生きる」、「尊厳をもって(=現在の生を肯定しつつ前向きに)生きる」という支援の目標は、がんと生きる全期間を通じて妥当するサポートの目標である。

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