演題抄録

教育シンポジウム

開催概要
開催回
第53回・2015年・京都
 

遺伝性腫瘍のがん予防

演題番号 : ES6-5

[筆頭演者]
新井 正美:1 

1:公益財団法人癌研究会がん研有明病院遺伝子診療部

 

癌の遺伝医療の意義は、癌のハイリスク者に対して早期に適切な医療が介入する機会を提供して、生命予後を改善することにある。現時点では、癌に罹患しやすい体質を治療することは難しいが、好発する癌への対策を計画的に立てることが現実的であり有効性も報告されている。
典型的な遺伝性腫瘍の原因遺伝子が1990年代に概ね同定され、その後の20年近い診療の積み重ねにより各遺伝性腫瘍の臨床的な特徴や自然史が明らかになってきた。
医療の介入の方法として、癌を早期に発見して対処することにより治癒を目指す2次予防と、癌そのものの発症予防のための予防的処置の2つに大別される。
前者は原因遺伝子の変異陽性者に対してマネジメントの基本である。遺伝性大腸癌・子宮内膜癌として知られるリンチ症候群では定期的な大腸内視鏡が生命予後を改善する。また、大腸内視鏡により大腸腺腫があればその都度摘除することにより大腸癌の発症リスクを60%以上低下させる効果もあり、予防的処置としての効果もある。サーベイランスにより好発する癌に対処できれば、臓器を温存して生活の質を維持できる利点もある。リンチ症候群の大腸癌に対しては多くの場合サーベイランスで対応できると考えられる。しかし現在、癌検診の有効性が示されている病態は限られている。
後者の予防的処置には、化学予防も含まれるが、多くの場合、遺伝性腫瘍において癌が好発する臓器を予め切除することであり、リスク低減手術とも呼ばれる。遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)では、卵巣癌の早期発見が難しいために、予防的に両側の卵巣、卵管を切除するリスク低減卵巣卵管手術(RRSO)がわが国の診療ガイドラインでも推奨されている。RRSOにより卵巣癌・卵管癌の発症頻度は低下し、さらに総死亡率も低下することが示されている。またRRSOにより乳癌死亡も減少するとされる。HBOCでは、乳癌発症と反対側のリスク低減乳房切除術についても生命予後の改善効果が報告されている。予防的処置の問題点として、臓器を切除することに伴う有害事象や手術侵襲に関連する合併症があげられる。
遺伝子診断が普及することにより、このような癌のハイリスク者に適切な対策を提供することが可能になってきた。将来はさらに多くのゲノム情報が活用されて、リスク評価に用いられることが予想される。遺伝性腫瘍のがん予防はそのさきがけとして成果が期待されている。

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