演題抄録

若手臨床腫瘍医のための技術ワークショップ

開催概要
開催回
第51回・2013年・京都
 

緩和医療の医療経済

演題番号 : TW1-4

[筆頭演者]
上塚 芳郎:1 

1:東京女子医科大学医学部 医療・病院管理学教室

 

医療経済学で先行している米国においては、緩和医療が医療費を抑制するという議論が以前からなされている。しかし、このような問題に対してランダム化比較試験は行われていないのが実情であり、残念ながらエビデンスははっきりしていない。1996年にDana FaberのEmanuelらがJAMAに書いた総説によれば、米国高齢者向けの公的医療保険であるメディケアの総予算の27%は死ぬ間際に使用されているものだとしている。そして彼らは、多くの研究者が信じている「死が迫っている状況では、ホスピスの利用や事前指示の活用によって、無理な積極治療を行わないことにより医療費が節約されるのではないか」というと仮説を検証しようとした。しかし、この論文で取り上げた3つの非ランダム化研究の結果は3つとも異なった結論であった。すなわち、ホスピスの利用により、医療費が68%減少したとの報告から、まったく差がなかったものまであったのである。スタディーにより、患者の選択バイアスもあるし、費用の計算に直接費用に加え間接費用を入れるかどうかなどの点が異なっており、異なった結論になったと考えられる。緩和医療が医療費を節約するかどうかという問題は、単なる医療経済上の問題というよりは、患者のプレファレンス(選好)やオートノミー(自己決定権)に関わってくる問題であろう。Archives of Internal Medicine誌は、2010年4月号でLess is Moreと題する特集記事を組んでいる。この論文で興味深い点は、現代医療のターミナル患者に対する治療のやり過ぎの傾向だけでなく、狭心症や心筋梗塞における心臓のインターベンションも引き合いに出して、これほどのインターベンション治療を本当に行う必要があるのか?健診のためのCTスキャンは本当に役に立っているのかCT後の発がん性も含めて分析するなど、とかく介入し過ぎがちな医療に警鐘を鳴らしている。

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